創作

祈祷

『もしね、かみさまと言われる存在がいて、その存在に、運命を配当する役と、割り当てられた運命を審査する人と、生まれたあとの僕らのことを監視する人がいるとするよ。 割り当てる人は、生命が誕生するときに、「この子にはあらかじめこういう長所を与えて…

長い夜だな。 こんなに夜が長く感じたことがかつてあっただろうか。 智は歩道橋から国道を走り去る車を眺めながらまた一つ、大きな溜め息をついた。 この路は水はけが悪く、轍に溜まった雨水がタイヤにかき回されて、波をたてていく。雨の日に歩道を歩いてい…

どれくらい時が経っただろう。 智は相変わらず兀然と国道の歩道から動けずにいた。雨はいまだ降り続いている。時折傘をさした通行人が通るが、彼らは智の身体をすり抜けて足早に歩いていく。携帯はもう駄目になっただろう。暫く着信音が鳴っていない。 寒い…

白梅の花弁が強風に煽られて飛び散り、タクシーのフロントガラスに張り付いた。桜ほどの艶美な華やかさはないけれど、深夜でも白梅はよく目立つ。 この国道の歩道には、紅白の梅の木が交互に植えられている。今の時期はたいていのドライバーがその可憐な景観…